荒山徹氏の本の評論これは、ホームページやブログで見付けた、荒山徹氏の本に冠する話題を引用した物です。公開されている物なので、著作権の侵害には当たらないと思われます。順不同です。区切りに**を入れております。** 波 2003年7月号より 「奇想」の生まれる根拠と場所 荒山徹『十兵衛両断』 関川夏央 柳生十兵衛は二度死んだ、といったのは山田風太郎である。この柳生十兵衛は時空を超えて剣をひらめかせた。 江戸初期、朝鮮使節来日のとき、一行中の高等官僉知のひとりが、遠い昔に自身に裏切られて逐電した佐橋甚五郎であると徳川家康は見破った。「太い奴、ようも韓人になりおおせた」と家康にいわしめたのは森鴎外である。 先だって、何かおもしろい小説はないかと尋ねて編集者に教えられたのが、荒山徹「故郷忘じたく候」であった。江戸開府後に来日した朝鮮使節のもとめに応じ、文禄・慶長の役(朝鮮では壬辰・丁酉倭乱)で日本に抑留・移住した朝鮮人の帰国希望者をつのった。しかし望む者がほとんどいない。やむを得ず各大名に割り当て、あたかも強制徴募をするように「刷還」したという話である。 司馬遼太郎『故郷忘じがたく候』をたんに裏返したばかりの作品ではない。そこには理がある。技能・技芸をたのんで生きる者にとって、技能・技芸への評価の薄さのみならず差別的でさえある両班支配朝鮮への帰国は、たとえそこが故郷であるにしろ必ずしも喜ばしいことではなかったとは、大いにあり得る。いわれてみればコロンブスの卵だが、やはり卵を立てたコロンブスが偉いのである。 荒山徹『十兵衛両断』はさらに雄大な物語だ。秀吉の朝鮮出兵と、それから間もない十七世紀前半の後金=清の朝鮮進攻すなわち丁卯・丙子胡乱の敗北は、朝鮮史上最大級の屈辱的な事件であった。そこを中心に据え、遠くは柳生石舟斎が剣聖神泉伊勢守信綱およびその甥にして直伝者疋田豊五郎と仕合って敗れた永禄六年(一五六三)から、柳生十兵衛が「三度死んだ」明暦二年(一六五六)までが時の舞台である。 柳生十兵衛三厳は韓人柳三厳の仮面の呪法によって、その肉体を乗っ取られる。心は十兵衛、肉体は柳三厳という不思議な人間が誕生する。韓人の肉体は武人のそれとはほど遠い。剣を一から習い直そうとしても徒労となる脆弱不活な文人の体である。十兵衛の心の絶望すること、いかばかりか。 朝鮮では武を尊重する文化伝統は、高麗朝の一時期を例外として絶えている。空論を生み出す口説と、それによる「正義論」「正閏論」のみが幅をきかせている。崇文侮武の癖はもはや骨がらみである。だからこそ要武の際に十兵衛の肉体の乗っ取りをはかったのである。 日本では武を差別しない。それは実用であり、むしろ誇りである。肉体を奪われ心だけ残された十兵衛は恥じて死する。しかしそれさえ肉体が恐怖して切腹の手を動かさぬのである。 十兵衛は精神のみの力で刀身を突き立て、腸を断つ。彼が死ななかったのは必然的偶然による。 かくして肉体の克服のための修行十年。 「水面に映じていたのは、韓人柳三厳の顔ではなかった。十年前に失った、自分の、柳生十兵衛の相貌が其処にはあった。すなわち、十兵衛の不撓不屈の心は、長い克己修行の歳月の果て、剣の腕ばかりか、柳三厳の肉体をも柳生十兵衛化することに成功したのである」 朝鮮は当時、宗主国明から北方新興勢力後金に対する出兵をもとめられていた。しかし朝鮮に軍事の備えはなく、実行力もないのである。戦いを避けようとした李朝第十五代光海君だが、中華を扶け北狄を叩かなければならないという両班たちの「理念的義戦論」にあらがい切れず出兵、すぐに降った。丁卯胡乱である。九年後、北狄差別への傾きからその講和条件を守らず、大清帝国となった後金との無用の戦いを招いて惨敗、城下の盟の屈辱をなめた。丙子胡乱である。 国難を招きながらも両班たちは、南人、大北、小北、西人の四派に分かれ、磨き抜かれた空論を戦わせて「党争」しつづける。そんな朝鮮文化の伝統は抜きがたく現代にまで脈打つのである。 「民主化」とは韓国の場合、「正義」を争奪する両班抗争回帰の面がなくもない。「正義」の根底に横たわるものは、小中華意識と、日本など周辺民族への差別的な「歴史観」である。やはり差別はよろしくない。少なくとも生産的ではない。 そういう朝鮮を荒山徹はよく学んだようだ。知識を積んだ上にようやく考えがさだまる。その考えの上に想像力を置いて、それが「奇想」となる。そうして、奇想天外なのにリアルな剣豪小説兼歴史小説が誕生した。風太郎も鴎外も遼太郎も、これを大いにたのしむことだろう。 (せきかわ・なつお 作家) ** 2006-08-17■[荒山徹]「鳳凰の黙示録」 荒山先生の作品は、書き下ろしよりも 連載していたものに加筆修正、という形のものが多いわけですが、 何気に何が現在連載されているのか、というのが 追いづらいトコが難儀ジャノー、とか思いつつ、 「荒山徹」でぐぐってみたところ、以下のような作品を発見。 「鳳凰の黙示録」 >本誌初登場 >荒山 徹 幼君暗殺使 >「鳳凰の黙示録」第一話 >玉座をめぐる争いの続く李氏朝鮮王朝。 >王は幼い異母弟を葬ろうとしていた。 >暗殺に奔る女剣士団。だが、その心は揺れる。 >「鳳凰の黙示録」、堂々のスタート!! 斯様なわけで、遥か以前に斯様な作品が「小説すばる」において 堂々スタートしてしまっていたりするわけでありますよ。 そして、 >「裏切りの要塞」 鳳凰の黙示録 第二話 >「血戦!白頭山」 鳳凰の黙示録 第三話 >「妖と魍の剣舞」 鳳凰の黙示録 第四話 >「火の鳥の城」 鳳凰の黙示録 第五話 >「不死鳥、復活!」鳳凰の黙示録 最終回 と、全6話構成で、タイトルを見た限りでは、 全編これ見渡す限りの朝鮮であり、乱舞する韓人であり、 荒れ狂う朝鮮妖術という「イノセント荒山ワールド」であり、 なんというか荒山先生の嬉々とした笑顔が 大空に浮かんで消えるような心持で砂。 いや、発刊が楽しみでアリマス。 なお、当方が見つけたのは、この(【国内著者別一覧・荒山徹】)なのですけど、 上記「鳳凰の黙示録」以外にも、 >「金髪くノ一絶頂作戦」(服部半蔵秘録) などという山風先生の「忍法金メダル作戦」に匹敵する ダメダメしい(褒め言葉)タイトルの作品の存在が確認されており、 なんとも先が楽しみでアリマス。 2006-08-19■[荒山徹]荒山祭 夕刻、神田の駅に集まりし影は五つであった。 本日は飲み過ぎであり、 即ち、べろんべろんでありぐでんぐでんでありへべれけだったので、 まずは参加者の皆様には改めて申し訳ないということを。 すいません。 つか、当方、後半動作不能に陥りながら思った事は、 「あー、よつばの電池切れってこんな感じかにゃー」 とかいうことでございました。 まあ、それはともかく、今回の顛末について大雑把に言うと、 「荒山先生はステキですね」 「ステキですね」 「ステキです」 「萌えますか?」 「萌えますね」 「萌えるね」 「では、以後、荒山先生は実は文系美少女(ツンデレ)であることでOK?」 「「「「ちょっとまて」」」」 というような塩梅であったということで。 つまりアレだ。 「荒山徹が朝鮮をファックするならば、 荒山者が荒山先生自身をファックする事で対峙するは因果!」 てなトコですかのう。 まあ、荒山先生萌え化説については、 「卒業-チョロップ」を読んで頂ければ、 そこはかとなく納得頂けるのではないかと愚考する次第。 ”しょんぼりする荒山先生の図”というのは、なかなかいいものでありましたよ? その他、ネタになってた事といえば、 ・ 響き渡るプロイセン柳生の勇壮なる大合唱。 ・ 真・荒山先生=黄算哲説。 ・ 次にハイパー化されるのはきっと清厳ですよ? 兵庫助の長男で剣才は親譲りでおまけに宝蔵院流の槍使いで、 しかも病を得たから職を辞して死場所を求めて島原に行くって それはどこの葉隠武士ですか。 ・ そういえば、ダブル十兵衛が戦ったのって、 ちょうど島原の乱が起こった年なんですよね。 つまり、時期的にどっちの十兵衛も"サラン"に接触を持てるよなあ。 ・ つか、「柳生十兵衛七番勝負」も絡めれば 荒木又右衛門(柳生の守護神)も出せるよね。 ・ あと、薔薇剣ってこれの14・5年前の話なんスよね。 ・ つまり…。 ・「私の名は幕屋香織(仮名)。父の名は大休。母の名は矩香。 はじめまして、十兵衛おじ様。姪の香織(仮名)でございます」 ・「私の名は幕屋香織(仮名)。父の名は大休。母の名は矩香。 そしてそのまた父の名は宗矩。 はじめまして十兵衛おじさま。 はじめまして宗矩おじいさま。 姪の香織(仮名)でございます。孫の香織(仮名)でございます」 ・ 朝鮮妖術「処刑御使」がありなら、次は影能で時空を越えるしか! ・ ホワイト宗矩&ブラック宗矩。 つまり、「ふたりは宗矩!」 ・ そして、熱く燃える炎の宗矩。 その名も「宗矩・ザ・レッド」! ・ 荒山先生と宮下あきらの親和性について。 ・ 「そうか、わかったぞ!ワンゴンさまとは朝鮮ダゴンだったんだよ!」 「な、なんだってー!(AA略」 ・ そこから現れる大和ワンゴンさま。 ・ 「なら、アメリカにもワンゴンさまがいたっていいじゃない」 ・ 斯様なわけで、次々と姿を現す世界中のワンゴンさま。 これこそが「ワンゴンファイト」の幕開けである。 ・ そして、ワンゴン・ザ・ワンゴンになったワンゴンさまの前に 立ちはだかる「スペースワンゴンさま」。 ・ 更に、円盤ワンゴンさまの姿も…! この他、「時をかける少女」はある意味トラップだよなあ、とか、 イン殺氏萌え化計画は何気に水面下で動いてるんですようけけけけ、とか、 斯様な塩梅でございました。 他にもあれこれあったはずなので、思い出したら追記していきますかのう。 とりあえず、今回は愉快痛快であり、 また適当にネタ(というか新刊)が集まったら、 第二回荒山祭をするのも一興かなあ、とか思ってるので、 心当たりのある方々は覚悟しておくようにというトコでよろしゅうですよ? ** [本]『魔風海峡』 荒山徹 頭は大人、心は子供。 福井晴敏がユニコーンガンダム書くなら、荒山徹はコリアンガンダム書けばイイじゃん!(暴言) 魔風海峡―死闘!真田忍法団対高麗七忍衆 作者: 荒山徹 出版社/メーカー: 祥伝社 発売日: 2000/12 メディア: 単行本 あらすじ。「豊臣家存続のために埋蔵金を持って帰って来てよ!」と石田三成に命令された真田・オヤカタサムァー!・幸村率いる真田十勇士。それに対するは、それを阻もうと家康が放った服部半蔵&朝鮮独立を目指す悲運の王子・臨海君率いる朝鮮忍者・檀奇七人集!かくして毎度のコトながら朝鮮を舞台に、いつも通りの限界突破ブッチギリ大戦争が決戦熱戦超激戦するのであった!! 本当にこの荒山という人は天才なのだと思います。こんなに単純に燃える話を書ける人を僕は多く知りません。おりしも「燃やし賞」開催中でしたが、「流石、プロは違うな」と実感しました。やはり人を引き込む文章力がハンパじゃないです。 特にもう一人の主人公(というかコッチが真の主人公か?)・臨海君と加藤清正のエピソードは白眉。「かっこいいとはこういうことだ」を見事に表現していて、男泣きしてしまいます。さらに壇奇七人集登場のシーンのかっこよさ!先月『Gロボ』で「九大天王勢ぞろい」のシーンで鳥肌を立たせた皆さんは、『魔風海峡』「第八章・殉愛の剣・独立の剣」を読まれることをオススメします。恥ずかしながら僕……興奮で…フフ……「勃起」……しちゃいましてね…。 また、李氏朝鮮・徳川幕府の差別政策に対しては、一貫して怒りのメッセージを発しているところも注目すべきところです。「ビヴァ・自由」を叫び続けた隆慶一郎と同じ「正当的伝記作家」の匂いがします。 というのはまあ最初だけ。文庫版の上巻までですよ。戦いが本格化しだしてからの展開が荒山徹の「本質」であり、荒山徹が王道に立てない「理由」であり、荒山徹の最大の「魅力」なのです。 荒山徹という人は、「頭脳は大人、心は子供」なのだと思います。どこまでも理論的な優れた歴史小説は書ける筈なんですが、燃え滾る少年の心に対して抑えが利かないんでしょうね。その結果、忍法という名の超能力でもって第n次スーパー妖術大戦が勃発してしまうんしょう。で、それを大人の頭脳がなんとかまとめようとするから、「とんでも理論」や「黒歴史」が出てきてしまうんでしょう。んで、普通の大人なら「そんな無茶な小説を世に出してしまうのはよろしくない」と自制が働くんだけど、荒山徹の少年の心は「オモロイからよかろう!」ということで出版しちゃうんでしょう。で、似たような病気の僕らがそれを読んで「最高!」とか言っちゃうんでしょう。そうなんでしょう。 僕は荒山徹じゃないので「そうでしょう」連呼になっちゃいましたけど、たぶん「そうだ」と思います。そして、そういう「頭脳は大人、心は子供」の人が書いた話というものは、哀しいかな超絶的に狂ってて面白いものです。僕はこの本を「こんな荒唐無稽な話あるか!」と怒ることはできますが、「こんなつまらない話があるか」とは死んでも言えません。「面白すぎる」なら何度でも言えます。 真面目な人なら途中で壁本にしてしまうかもしれません。馬鹿な人は祭り上げて褒め称えてしまうかもしれません。僕はどちらも違うような気がします。「馬鹿だなあ」といいながら、そっと胸に抱きしめる。そうするのちょうどいい、愛すべき伝奇小説ですよ『魔風海峡』ってヤツは。 (以下既読の方向け、ぼやきコーナー) いや、霧隠才蔵が瞬殺されたときにヤバイとは思ったんすけど、まさか大仏とは……。いつ臨海君乗せてジャイアントサラバするかと思ってしまいました。幽霊移動石塔もなァ、ゾンビもなァ、それに対抗するのがブードゥーってのもなァ、ひどいっちゃヒドいっすよね。筧十蔵を瞬殺してめっさ強いと思われた伽耶婦人の忍術が地味だったりするのもなァ。 まず最初に才蔵と十蔵殺しちゃうところが凄いですよ。こういうバトルロワイヤル的なものは、「どれだけ実力伯仲の関係を続けられるか」というのがネックなんですけど、そんなん全然考えてない。最初の能力設定からしてどう見ても朝鮮チーム有利でしょ。んで終盤はどう見ても日本チーム有利でしょ。バランスが凄く悪い。その結果、小六郎がハッスルしすぎてたり、超人の鎌之助が「爆弾で普通に死ぬ」みたいな無理展開が起こるんですよ。もうバカ。 あと根津甚八の死に様は、僕の見た「嫌な死に方」ベスト5に入る勢い。夢に出そう。 壇君朝鮮はある前提なのですか。「紀元前二一八一年」とか普通に言ってるけど。で、僕も普通に読んで「檀君忍法スゲー」とか言ってるけど。ヒドい世界。 最後の最後で「ただしある在野の史書には次のような記録が留められている」って、そんな嘘のつき方あるかよ!「在野の史書」って、それアンタの書いたネタ帳だろ!自由か!いまさらそんなんで釣られるか、バカ。クマーーーーッ!(AA略) まとめ。早くコリアンガンダムを書け! ** 2006-05-10 ■ [読書]『柳生雨月抄』(荒山徹、新潮社)、そろそろ荒山徹は痛烈にDISっといた方がいい 柳生雨月抄 作者: 荒山徹 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2006/04/25 メディア: 単行本 「書き出しをどうしようか非常に迷いました。 id:roku666 さんが『十兵衛両断』の感想を「この人あたまおかしい。以上。」で終わらせようとした気持ちが痛いほど分かります。こんないい意味でも悪い意味でも面白すぎる小説を書きやがって……というネガティブ感情が激しく沸いてきます。」 「先生を知らない人のために説明しておくと、荒山徹というのはこんな作家です。」 荒山徹先生とは。 伝奇小説作家。 伝奇小説は時代小説と微妙に異なります。このサイトの定義では、史実をそのまま描いたり、逆に全く創作したりするのではなく、歴史上の事実の間に創作を織り交ぜて「実は真の歴史はこうなんだよ!」と言い張る小説のことを指します。 作品の対象は戦国時代末期 江戸時代初期が中心です。伝奇小説の大先輩・隆慶一郎先生とほぼ同じ題材です。 このサイトの用語では上記の時代を「隆慶一郎の領域(テリトリー)」と呼んでいます。 作品にはほぼ 100% の割合で朝鮮及び朝鮮人が登場します。 先生は韓国への留学経験があります。 作品には比較的高い割合で忍術・妖術が登場します。 先生曰く「発想においては、子供の時に読んだSFやマンガの影響が大きいと思います」だとか。 「で、なぜこの人を痛烈にDISるべきかというと、一言で言って書くことが余りにもフリーダムだからです。嘘をつくことに全く躊躇がないというか、良心のタガがないというか、思いついたことを書かずにはいられないというか、大人としてやってはいけないことを弁えていないというか、およそ社会生活を送る上では致命的欠点としか思えない特徴をバリバリ兼ね備えた凄い人です。 世の中に伝奇小説家という職業があって本当によかったと思います。ほとんど奇蹟ですよ、そういう短所が全て長所に転ずる仕事が実在するなんて。」 「ここで先生の仕事が具体的にどれだけ酷いのかを説明したいのですが、ネタばらしを避けて通れないので、先入観なしで荒山作品を読んでみたいという方はこの先を読まない方が賢明です。 いま唐突に思い出しましたが、かつて『マグノリア』を観た友人(女性)が同じようなジレンマでうずうずしてましたよ。『マグノリア』がどれだけ酷いのかを話したいけど、結末を喋らずに説明するのは不可能。結局その場にいた全員に『結末喋っちゃっていい? 観ないよね?』と念を押した上で『だって○だよ!? 二時間ずっと見せといて最後は○が○ってくるんだよ!?』と語る彼女はとてもいい笑顔でした。」 「閑話休題。 それでは『柳生雨月抄』のネタを少しだけばらします。 連作短篇集『柳生雨月抄』の第一話『恨流(ハンノナガレ)』にはモ○ス○ラ*1が出てきます。」 「言っている意味が分からないと思いますが、読んでいても全く意味が分かりませんでした。だから、本当にヤバいんですよ。荒山先生は何をやらかすか一切予想ができないんです。繰り返しますが、史実をベースにした小説で、江戸時代初期の、日本の海岸に、モ○ス○ラが登場します。役柄は朝鮮妖術師の使い魔です。説明すればするほど訳が分からなくなりますね。『柳生雨月抄』はそんな小説です。」 「気になるところにツッコミ続けると際限がないので、ネタバレ話はSomeone Wiki - 小説/荒山徹でやることにしますが、一つだけ書かせていただくと、第一話『恨流(ハンノナガレ)』は韓流と『柳生武芸帳』第一章『陰流(カゲノナガレ)』をかけた題名ですね。こんな題名を思いつく作家がどの口で「ずっと一人韓流だった」とか言うかと思いました。」 「ここで場に伏せておいたのんぽり魂バナー(id:xx-internet:20051112:p1)を発動。以降の当サイトの記述は全ての政治的意図からフリーダムとなります。」 「植物のような Web ライフを目指す当サイトは右翼だの左翼だの嫌韓だの自虐史観だのに関わりあう気はないので、朝鮮及び朝鮮人に関する記述は筆者の政治的立場を示すものではありません。」 「その上で話を進めますが、この人が天下を取ったら必ず何かしらの外交問題になると思います。この人の朝鮮に対する愛情は傍目からは憎悪にしか見えない愛情です。いくら伝奇小説の中とはいえ「その朝鮮史は後代の捏造」とか「韓人は卑劣」とか書きすぎ。韓国人が書いた仮想戦記には日本を侵略するものがあるそうですが、伝奇作家がどれだけひどい嘘つきなのかを知らない人にとっては、荒山作品は日本版朝鮮陵辱仮想戦記に見えてしまうんじゃないかと非常にドキドキします。 こんなに面白い小説が評価されないわけがないけど、評価されたらいろいろ面倒臭いことが発生してグダグダになるんじゃないかと心配で仕方ないわけですよ。世の中シャレが分かる人ばかりじゃないから。 ああもう、いい意味でも悪い意味でも面白すぎる小説を書きやがって!」 「念のため書いておきますが、歴史解釈なんかの議論をする際に荒山作品を引き合いに出すのは止めた方がいいです。それは「竹島は日本固有の領土です。ジャンプにもそう書いてありました」って言うのと一緒です。あなたの正気が疑われます。この人を司馬遼太郎とかと同じ分類箱に入れてはいけません。板垣恵介や宮下あきらと同じ箱に入れるべきです。」 ** uruya の日記 2006 年 09 月 05 日 AM 09:53 - 十兵衛両断 / 荒山徹 十兵衛両断 / 荒山徹 着手 9/1 読了 9/4 感想 ★★★★★ 荒山徹はものすげぇ奇才だ 十兵衛両断 柳生宗矩の元を訪ねて来た元朝鮮国使、孫文とその従者柳三厳。彼らは宗矩に、柳生十兵衛を朝鮮に貸せと要求する。 文尊武卑の朝鮮において剣技は発生しなかったが、秀吉出兵時に疋田景兼が伝えた剣術、疋田新陰流の流れを汲む"朝鮮新陰流"が『独立党』に伝わっている。清国の台頭にともなう宗主国交代の混乱により威を振るう『独立党』を撃退するため、柳生新陰流の達人である十兵衛の力が必要なのだ。 宗矩はこれを拒否するが、孫文らは朝鮮妖術ノッカラノウムを使い、十兵衛と柳三厳の体を入れ替え、逃げ去ってしまった。 反撃を期し、あらためて剣術を錬る十兵衛だが、柳三厳の肉体の劣悪なことこの上なく、いささかの進歩も見られない。十兵衛は絶望しか得ることができなかった。 柳生外道剣 朝鮮との国交正常化を図る家康に、松雲大師・孫文ら朝鮮国使がつきつけた条件は、豊臣の誅滅と、棺をあばき死体を斬る"剖棺斬屍"の実行であった。もとより豊家滅亡は利害の一致であり、夏冬の陣を完了した家康は、もうひとつの条件を果たすため柳生宗矩に剖棺斬屍の案内を命ずる。 同道した柳生石舟斎は士にあるまじき外道、と宗矩を諭すが、宗矩意に介せず。発掘した秀吉の遺骸の首を切って捨てた。その時。乱入して来た何者かが叫ぶ。「外道に墜ちられたかっ。柳生新陰流」 陰陽師・坂崎出羽守 朝鮮出兵時、ソウル漢城に駐屯した宇喜多家の本陣には怪異が起こっていた。毎夜一人ずつ、夜番の兵が死体となって見つかるのである。その死体の首すじには小さな穴が開き、血の一滴も残されていない。宇喜多軍は恐慌に陥ってしまい、困り果てた宇喜多秀家は朝鮮陰陽師・鄭玄秀に、怪異を鎮めるのと引き換えに家臣への取り立てを約束。秀家の妻・豪姫の姿で現れた美しき裸形の化物を、鄭玄秀は見事に仕留めてみせる。化物の正体は一匹の芋虫であった。 二十四年後。一通の書状に呼び出された柳生宗矩の門人・仙堂豹馬が一刀に斬られた遺体となって戻る事件が起こる。豹馬の懐には、小箱に入った一対の芋虫が。小箱の紋は石州津和野藩、板崎出羽守のもの。出羽守には昨今、千姫との再婚を巡る政治問題が起こっていた。そして板崎出羽守には、韓人であるとの噂があった。 太閤呪殺陣 妖術師・羅儀衛に豊太閤呪殺を命じた朝鮮国王に対し、羅儀衛は降倭(朝鮮へ降った日本人)を伴い日本へ赴くことを要求し、受け入れられる。同道するは、沙也可こと雑賀孫市の配下・安村新兵衛と、柳生久三郎純厳。 柳生一族に名を連ねながら、その複雑な出生による拗れにより出奔に至った純厳には、剣をもって朝鮮王に仕え、朝鮮柳生、朝鮮新陰流をうち立てるという野望があった。その野望を果たすため手柄をたてる必要があったのだ。 一同を乗せた船は釜山を出港、刻々と日本に近づく。そして舩が対馬に着いたその夜。羅儀衛は日本の陰陽師にその目的や人員、現在位置など全てを気づかれたことを察知する。 剣法正宗遡源 酒井雅楽頭に突然呼び出された柳生宗冬は、激怒する。いま来日中の朝鮮通信使一行が、日本の剣術は朝鮮発祥であると吹いているというのだ。したり顔で朝鮮の言を伝える林羅山らに、宗冬は直接の対面を申し出、酒井はこれを許可する。 朝鮮使は言う。神泉伊勢守、朝鮮の産なり。愛州移香斎、これも朝鮮の人である。倭寇撃退のために派遣された剣術師が土着し、日本に剣術を広めたのだと。怒りを抑えかね、手合わせを申し出ようとした宗冬だが、居合わせた松平伊豆守信綱の鋭い捌きにより場はおさまる。しかし、実技を見せようとその場で演じた朝鮮剣客の手筋。それはまさしく、故・柳生十兵衛の手筋であった… 他日。宗冬へ、甥の六丸が一通の古文書を差し出す。それは神泉伊勢守の遺書であり、伊勢守が韓人であることを示す文がつづられていた。これを、何者かが、伊勢守の墓をあばき納めようとしていたのだ。 伝奇読みの心を鷲掴みにして離さない巨匠・荒山徹を読んでしまいました。 いやあまいった。凄い凄いとは聞いていたが、本当に凄かった。何が凄いって、これが面白いんだから凄い。 基本的に漫画なんですよ、発想も手法も。馬鹿としか言いようのないアイデアを平然と持ち出して、どんどんエスカレート。普通、常識人ならばどこかで歯止めがかかると思うんですが、この人にそんなものはない。いやもう友景とかありえないっスから。馬鹿だろあんた。 元気があれば何でもできるのはアントニオ猪木ですが、荒山徹は朝鮮妖術があれば何でもできる。ナントカに刃物、荒山徹に朝鮮妖術。いかなる妄想もたちどころに説明可能。論拠?隆慶一郎が書いてたし南条も言ってた。普通の日本人には真偽の区別さえつかない資料もあるよ。第一、鶏林大教授黄算哲先生の研究がそう示してる。コウサンテツ。 ときおり見せる単語のチョイスの馬鹿さ加減。朝鮮柳生やらα星ポラリスやら中国柳生やら柳生戦隊やら果ては集団ホニャララなど。あんたどこまで本気だ。「センセイ、やりすぎです!」と言いながら後ろから羽交い絞めしたい。 読者の想像の上を行って度肝を抜くのが普通の小説家。荒山徹はナナメ上はるか上空を行く。誰も想像つかない。つく方がおかしい。とにかく突っ込み始めたらきりがない。 そして、これだけ馬鹿でくだらないのに超絶的に面白い。『剣法正宗遡源』のネタが割れたとき、久々に読みながら「あっ」と叫んだ。エピローグ前の最後の一行、決めフレーズで背筋に寒気が走った。 もうね、何でしょうか。奇才としか言いようがない。とにかく一読の価値アリ。 ** 2006-05-02 ■ [読書]『サラン 哀しみを越えて』(荒山徹、文藝春秋) サラン 哀しみを越えて 作者: 荒山徹 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2005/05/10 メディア: 単行本 「これはひどい。」 「短篇集です。日本と朝鮮の間の隠された歴史を悲劇ベースで描きます。 表題作以外は史書を捏造することもなく、スーパーナチュラルの世界にも踏み込まず、非常に真っ当な時代小説として読むことができます。お、荒山先生、普通にいい話も書けるんじゃない。そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。表題作を読むまでは。」 「とにかく表題作が最悪です。ここでいう最悪とは『歴史に対する罪』のことで、伝奇的には最大の誉め言葉です。サランとは韓国語で『愛』の意味ですが、当然ながらダブルミーニングです。読み終わった後しばらくは呆けながら「サラン…、サラン…」と呟いてしまいました。大人だからものすごく下らない駄洒落も思いつくけど、それは心の中にしまっておきたい。」 YOMIURI ONLINE : [気鋭新鋭荒山徹(あらやまとおる)さん 44 (作家)] 最新作の短編集『サラン 哀(かな)しみを越えて』(文芸春秋)では、日本武将の妻となった朝鮮女性など、異郷で意地を貫いて生きる人々を、史実に沿って描き出した。 「ウッソツケ!(オーレン・イシイのイントネーションで) 他はともかく『日本武将の妻となった朝鮮女性』は捏造 100% でしょう。この記事書いた人、『サラン』を読んでないでしょ。だから荒山先生に手もなく騙されるんですよ。伝奇作家なんて嘘を吐くのが仕事なんだから、言ってることを信用する方がおかしい。」 「正直、事前に聞いていた噂でオチは予想できました。勘のいい人はとある伝奇小説家の名前を出すだけで気づくでしょう。だからこれ以上ヒントは出しませんが、そのネタを予測してから読み終わるまでのドライヴ感は凄かったですね。自分がリアルタイムで詐欺に遭っているというあの感覚。朝鮮で生まれた少女が海を渡って日本に辿り着き、様々な属性を付けられて歴史の闇に組み込まれてゆく様。サラン…。サラン…。」 ** 小説/荒山徹 NOTICE! 作品の内容に触れます。未読の方はご注意ください。 あらすじ † 故国・朝鮮との縁を切るために美貌の女性うねが、鎌倉東慶寺に駆け込んだ。 朝鮮で虐げられ日本に永住を決意した朝鮮の人々を、強制帰国させるために朝鮮使節団が来日したのだ。 幕府内の家光派と忠長派の対立や使節団の思惑もからみ、うね争奪をめぐって幕府は二分される。 名だたる剣豪や忍者群の暗躍、朝鮮妖術師も加わり、血で血を洗う暗闘が始まった。 東慶寺住持・天秀尼に特別な想いを寄せる三代将軍家光は、柳生但馬守宗矩に密かに寺の守護を命じる。 宗矩は、嫡男十兵衛を凌ぐ剣客でもある実の娘・矩香を男子禁制の東慶寺に遣わすが、そこに現れた人物こそは…!? 柳生新陰流と朝鮮妖術師の対決、三代将軍家光の密やかな恋、 朝鮮出兵に隠された真実など、時代小説の面白さ満載の破天荒な力作伝奇長篇。 http://www.amazon.co.jp/gp/product/4022500557 ↑ 登場人物 † 柳生矩香(やぎゅう・のりか) 主人公。設定年齢二十三歳。柳生宗矩の長女にして柳生十兵衛の姉。絢爛豪華な美貌を誇り、剣の腕は柳生ノ庄最強という完全生物。頂点は常に一つなので自分より弱い男には嫁入りしない。 柳生十兵衛(やぎゅう・じゅうべえ) 設定年齢十八歳。ツンデレかつシスコン。 柳生宗矩(やぎゅう・むねのり) 剣の腕・言動とも隆慶一郎スタンダードに準拠した黒宗矩。 柳生友矩(やぎゅう・とものり) 設定年齢十三歳。作中では延べ 50 名程度を斬殺し、ちょっと人斬りの快楽に目覚める。 柳生友景(やぎゅう・ともかげ) 陰陽師にして柳生最強クラスの剣士。 P210 付近で触れられる新・征東行中書省との暗闘は『柳生雨月抄』で描かれる。 庄田喜三衛門(しょうだ・きざえもん) 柳生高弟。矩香の目付役。 貴月うね(たかつき・うね) 韓人女性。韓名「成恩愛」(ソン・ウネ)。壬辰の乱の際に貴月主馬と出会い、戦後日本へ帰化。慶長十二年の刷還使来往に伴い、隈本藩から強制送還されかかったのを拒絶、縁切り寺として名高い東慶寺へ駆け込む。 貴月主馬(たかつき・しゅめ) 肥後隈本藩士。捨て駒。 貴月啓之進(たかつき・けいのしん) 貴月主馬の長男。捨て駒。 貴月誠二郎(たかつき・せいじろう) 貴月主馬の次男。捨て駒。 貴月宗三郎(たかつき・そうざぶろう) 貴月主馬の三男。捨て駒。 鷹ノ巣康祐(たかのす・やすすけ) 肥後隈本藩士。出オチ。 徳川秀忠(とくがわ・ひでただ) いつもの。 徳川家光(とくがわ・いえみつ) 時の将軍。幼少の頃からの天秀尼への恋心ゆえに柳生宗矩へ東慶寺守護を命じる。ボンクラ。 土井大炊守利勝(どい・おおいのかみ・としかつ) いつもの。 酒井雅楽頭忠世(さかい・うたのかみ・ただよ) いつもの。 松平伊豆守信綱(まつだいら・いずのかみ・のぶつな) 通称"知恵伊豆"。 百舌(もず) 忍者。捨て駒。 箙幻薫斎(えびら・げんくんさい) 大坂の役後に改易された服部半蔵に代わり、伊賀・甲賀・根来の三忍を束ねる徳川忍び組の棟梁。 壮帆之介(さかり・はんのすけ) 土井利勝の懐刀。向坂甚内の遺児。 九十九半四郎(つくも・はんしろう) ザコ。叛して死すの意をもって叛死郎を名乗っていた。 小野次郎右衛門忠明(おの・じろうえもん・ただあき) 将軍家剣法指南役。小野派一刀流の総帥。 小笠原源信長治(おがさわら・げんしん・ながはる) 神泉伊勢守の門人・奥ノ山休賀斎の弟子。真新陰流を自認し、柳生に換わり将軍家剣法指南役の座を狙う。明に渡り張良の子孫から矛術の手ほどきを受け、独自の秘剣"八寸ノ延矩"(はっすんののべかね)を工夫する。 鄭〓(ていりゅう) 回答兼刷還使の正使。 姜弘重(きょう・こうじゅう) 回答兼刷還使の副使。 辛啓栄(しん・けいえい) 回答兼刷還使の従事官。 南師今(なんしこん) 朝鮮妖術師。朝鮮十三代王・明宗の代にいた南師古なる妖術師の術を継ぐ。寺を霧でくるんで異次元に飛ばす一発芸を使う。 天秀尼(てんしゅうに) 豊臣秀頼の遺児・涼姫。 桂香尼(けいこうに) 東慶寺の尼。 徳川忠長 徳川秀忠の息子にして徳川家光の弟。徳川最暗君の誉れも高いことは『シグルイ』等でもはや常識であるが、本作品ではただの野心に燃えるボンクラとして描かれる。 幕屋大休(まくや・たいきゅう) 幼名・織部之介。柳生の里で矩香と共に育てられ、無双の剣腕を誇る。矩香と恋仲だったが、柳生の大敵・戒重の出であることを知られ、討伐の手をかいくぐって逃亡。以後越前で松平忠直に仕えていたが、徳川忠長の要請に応じ東慶寺襲撃に参加。廻国修行のさなかに妖魔を斬ることで「「神」と「妖」を曼荼羅的に一体化させた超絶の極み」(原文ママ)に達し、幕屋新陰流を完成させた。 ↑ 元ネタ大全 † ↑ 東慶寺 † いわずと知れた山田風太郎『柳生忍法帖』の前半舞台。 ↑ 鷹ノ巣康祐 † 山田風太郎『柳生忍法帖』の登場人物・ 鷲ノ巣廉助(わしのす・れんすけ)と、剣豪小説の大家・五味康祐(ごみ・やすすけ)の名を組み合わせたもの。こういうことをやりつつヌケヌケと 「どんな作家がお好きでしょうか? 私は五味康祐さんです。」 と言ってしまう荒山先生はやはり物が違う。 WikiPedia.ja:五味康祐 ↑ 幕屋大休 † 映画『十兵衛暗殺剣』(東映・ 1964 年)の登場人物。柳生十兵衛の終生の大敵。 http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00005GOX9/ ** ジャンル別一覧
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